イロハモミジ 季節のグラデーション

朝晩の気温がぐっと下がり、一気に季節が進んだように感じるここ数日。街の木々も万緑の候から徐々に衣替えを始めています。
紅葉の代表樹であるイロハモミジはカエデの一種で、その掌状に深く切れ込みの入った小ぶりな葉は、秋の深まりに伴って鮮やかな紅色へと染まっていきます。今の時期はちょうど、一本の木でも枝先から中心部、樹冠の上部から下部へとグラデーション状に葉が染まっていく様子を目にすることができます。
東京都文京区、東京ドームのすぐ隣にある小石川後楽園のイロハモミジも、大泉水の周りで秋の装いを纏い始めています。葉が美しく色づくには、昼夜の温度差、十分な日当たりや湿度などいくつかの環境条件があります。その点で小石川後楽園のように池を中心に据えた日本庭園や公園は、適度な樹間と湿度が保たれた環境にあるため全国的にも紅葉の名所と呼ばれる場所が多くあるのです。

「もみじ」という言葉はもともと木々の葉が赤、または黄色くなることを意味する「もみず/づ」という言葉に由来すると言われています。もみずとは染め物を「揉み出ず」、つまり水の中で染料を揉み出すことになぞらえ、葉色が染まっていく様を表しているのです。いにしえの人はこの時期、霜さえ降りるようなひんやりとした朝晩の空気の中で季節が進むことを、感覚的に捉えていたのかもしれません。


紅葉の季節はまだ始まったばかりです。公園や街中でこれという一本や一帯を決め、葉がどこから染まっていくのか、紅葉の進みを追ってみるのも楽しいかもしれません。