東京都練馬の白山神社には、地域に愛されるケヤキの大木があります。
樹齢はおよそ900年。平安時代の武将、源義家(鎌倉幕府を開いた源頼朝の祖先)が奉納したものと伝えられており、平成8年には国の天然記念物に指定されています。
鳥居をくぐり本殿へと続く石段の下、周囲の建物と比べてもひときわ大きなその姿があります。樹高19m、美しい扇状に枝を伸ばし青々とした葉を茂らせています。
かつてこの神社には、周囲を囲むようにケヤキの木が植えられており、明治時代には6本、昨年までは石段の上にも同じく天然記念物に指定されていた大ケヤキがありました。しかし台風による幹折れのためやむなく撤去となり、今はこの石段下の1本が残るのみとなっています。
ケヤキのように太く大きく成長する木は、樹齢100年、200年、中には1000年を超えるものも少なくありません。しかしこの大ケヤキの姿をよく見ると、人の一生の何倍もの時間を生きるということが、やはり決して容易いことでは無いということがよく分かります。
縦に大きく割れた幹、象の足のように硬く盛り上がり一部が黒く炭化した根元。900年という時間の中で、この大ケヤキも落雷や樹幹の腐朽などを乗り越えて今日までその生命を繋いできたのです。
取材時は平日の午後、ぽつぽつと雨が降り出す中でも、住宅街にある白山神社には地元の方が日課のようにお参りに訪れる姿が度々見られました。だんだんと強まる雨に道行く人も家路へと急ぐ中、一人のおばあさんがカートを引きながら鳥居の下をくぐってきました。大ケヤキの前で足を止めると、しばしその場で手を合わせ、またカートを引いて帰って行きました。
周辺から出土した板碑から、すでに鎌倉時代にはこの神社を中心に集落が発達していたと言われています。その頃から変わらず根を張り続ける大ケヤキには、訪れた人が自然と手を合わせてしまう神聖な力強さがあります。大ケヤキに手を合わせるおばあさんの姿に、いにしえの人も同じように手を合わせてきたのではないだろうかと、変わらない人間の営みを見たような気がしました。