ムクノキ 古木の発するエネルギー

住みたい街としても名高い吉祥寺の駅からほど近く、武蔵野市と三鷹市にまたがる都内有数の人気スポットが井の頭恩賜公園です。
年間を通じて多くの人々が散策に訪れる井の頭公園ですが、その中心には神田川の源である井の頭池があります。池沿いにはサクラを中心に多くの木々が植えられ、四季折々の姿で来園者を迎えています。今回はその中に、力強い姿をみせるムクノキを見つけました。

池に向かってせり出すように伸びる幹は、そこから吹き出した新芽にびっしりと覆われています。枝葉が重なり合う姿を下から見上げると、この木が全身で呼吸をしているような力を感じました。
ムクノキは成長の早く、芽を出す力が強い木だと言われています。

 

 

また古木になると樹皮が剥がれ落ちるのが特徴で、写真でも幹の上の方にその跡が見られます。このことから井の頭公園のムクノキもある程度の樹齢を重ねていることが分かりますが、実は幹の途中から芽吹いている様子からもそれが言えます。

 

 

 

胴吹き」というこの状態は、葉から根まで全体に栄養が回らなくなった樹木にみられるもので、幹から直に葉を出すことで緊急の光合成を行なっているのです。
ムクノキを見上げたときに感じた力は、勢いを徐々に失いながらも生きようとする命のエネルギーだったのかもしれません。

ソメイヨシノ 真夏に木陰のオアシス

記録的な暑さが続く今年の夏。
外にいるだけでくったりと力を奪われてしまう人間とは反対に、街の樹木は強い日差しの中でも元気いっぱい、生き生きと葉を茂らせている様子がそこかしこで見られます。

そんな夏真っ盛りの今回の樹木は、日本人と最も親しい関係を築いてきたサクラの代表種、ソメイヨシノです。
数百種に上るサクラの園芸品種のうち、ソメイヨシノは成長の速さ、見栄えのする花の美しさから最も好まれ、明治以降、爆発的な勢いで植樹が進みました。

 

 

全国各地、学校や公園、街路樹など街のいたるところ目にすることができますが、やはり見頃は美しい花を咲かせる春。ではなぜこの時期に?と思われるかもしれませんが、サクラの各種にとって夏は重要な季節。実は、照りつける太陽のもとで次の春に咲く花芽をつけているのです。
写真は葛飾区某所の住宅地の一画。ソメイヨシノのアーチが続く通りがありました。

 

 

 

道の両脇から青空を覆うように伸びる枝葉は、熱いアスファルトの地面に涼やかな影を落とします。ただの日陰と違い、水分を蒸発させる葉のおかげで木陰は幾分涼しく、一息つける心地よい空間をもたらしてくれます。
照りつける太陽から私たちを守ってくれる一方で、人知れず次の春に花を咲かせる準備を始めているソメイヨシノ。季節ごとに寄り添い方を変えながら、日本人の生活に息づいてきたことを感じました。

根津神社 表情豊かな夏のツツジ

短い梅雨が明け7月に入り、東京はひとっ飛びで真夏へと向かって日中の気温をぐんぐん上げています。強まる日差しに、街の木々も緑の深さを日に日に増しているようです。そんな平成最後の夏の始まりにご紹介するのは、日本人に親しみ深い低木、ツツジです。

アジアに広く分布するツツジは、日本でも古くから園芸品種として親しまれ、交配を重ねて多くの品種が生み出されてきました。そのため多くのツツジの仲間が、春には白や淡いピンク、濃い赤や紫など鮮やかな花を咲かせ、人々の目を楽しませてくれています。ですが花が見頃の春が過ぎ、夏の青々としたツツジに目を向けることはあまり無いのではないでしょうか。

 

 

文京区根津、この地にある根津神社はツツジの名所として知られています。境内の3000株を超えるツツジは3月の終わりから5月にかけて色とりどりに咲き競い、この時期のつつじまつりには毎年多くの人が訪れます。

根津神社のツツジは花を散らすと、きれいに剪定された丸い姿を保ったまま新葉を開きます。葉の色が一段と濃くなる今の季節、もこもことしたツツジの姿は苔むした岩のようにも、あるいは小さな森のようにも見えます。

 

 

 

強い日差しが少しずつ陰る夕方、連なる株の陰影は深まり、より一層豊かな緑の表情を見ることができます。
春に咲く花や、秋の紅葉が見どころの樹木も、少し時期をずらして見てみることで、このように新鮮な美しさを発見することができるかもしれません。

コブシ 芳香の田打ち桜

この3月は平年より気温が高く、各地から続々と桜の便りが届きました。東京でも24日に観測史上3番目の早さで桜が満開となり、その後はお花見日和の晴天が続いています。

東京都千代田区、皇居に隣接する都心のオアシス日比谷公園でも、暖かな陽気に誘われて桜やチューリップ、菜の花など春の植物が見頃を迎えています。
その中で桜に比べて控えめな姿ながら、芳しい香りで道行く人を惹きつける木を見つけました。早春を代表する花木、コブシです。


コブシの花はヘラのような形の白い花びらを大きく広げ、香水の原料にもなる強い香りを放つのが特徴です。早春の山野に咲く白い花が麓からも見つけやすく、日本各地でこの時期の農作業の目安になったと言います。
門出の春、華やかな桜が人々を祝福するように咲くのであれば、慎ましく白いコブシの花は、シャンと背筋を伸ばしてくれるような佇まいです。
新年度の始まり。樹木に目をやる余裕を忘れず、気分新たに参りましょう。

 

カンヒザクラ 力強い春の息吹

3月の始まりとともに春一番が吹き、気温が一気に上昇した今週。暖かな日差しの中で、一際鮮やかな早咲きのサクラをご紹介します。

浜離宮恩賜庭園はすぐ側にオフィスビルが立ち並び、目の前を首都高が通る都心の喧騒の中にありますが、一歩足を踏み入れると四季折々の草木が美しい、穏やかな空間が広がっています。この時期、園内ではさまざまな種類の梅や、ぐんと成長した菜の花が来園者の目を楽しませてくれますが、中でも一際濃く鮮やかな色で視線を集めるのがカンヒザクラです。

 

カンヒザクラは中国南部〜台湾に自生し、日本では沖縄でよく見られるサクラの原種の一つです。ビビットな緋紅色の半開した花が、釣鐘状に下を向いて咲く姿が特徴で、淡いピンク色のサクラをイメージするとその違いに驚くかもしれません。散り方も他のサクラの様に花びら一枚ずつ散るのではなく、萼ごとぼとっと落ちていきます。

 

カンヒザクラは、淡い色の花々が多い季節にあって、春霞を吹き飛ばすような力強さがあります。目の覚めるような春の息吹を感じに、浜離宮恩賜庭園へ訪れてみてはいかがでしょうか。