日本庭園で際立つ水辺の松

松といえば“松竹梅”と縁起物の筆頭であり、能や狂言の舞台の背景にも描かれている木。また青々とした松が美しい海岸の風景を示す“白砂青松”という言葉もあるように、日本人にとってどこかシンボリックな木なのではないでしょうか。各地の景勝や自然を模して四季の移ろいを鑑賞する日本庭園にも松は欠かすことができません。
江東区清澄白河にある清澄庭園は、大泉水(池)を中心に周りを園路が囲む典型的な形式の日本庭園です。ここでは池の縁から水面ぎりぎりに枝を伸ばす松の木々と、その枝ぶりが美しく水面に映る様子を間近に見ることができます。
清澄庭園は当初、地方藩主の下屋敷内の庭園として造られたましたが、明治に入り三菱財閥の創業者である岩崎弥太郎の手に渡ると、さながら石庭の観を呈す現在の姿へと手が加えられていきました。岩崎家は自社の汽船を使って全国から名石を集め園内に配置したほか、一枚岩の石橋やとび石の磯渡りなど、効果的に石を使って池の景観を楽しむ工夫を盛り込みました。実際に石の上を渡ると視線が水面に近づき、歩を進めるごとに池に映る草木の姿が変化していくのがよく分かります。池の中島に植わる松の姿は言うまでもなく、揺れる水面に映る様子もまた日本庭園ならではの風景です。これから迎える紅葉の時期には、松に加えて色づいた他の木々も水面に表情を足してくれます。いつもは見上げる視線を少し下げてみると、新しい秋を発見できるかもしれません。